January 2, 2021 / 11:30 PM / 14 days ago

2021年の視点:日米欧は超緩和維持、日銀は国債買入方針が課題=井上哲也氏

[東京 3日] - 2021年の日米欧中銀による金融政策は、新型コロナウイルスに効くワクチンの接種拡大で年後半に経済が持ち直しても、現在の強力な金融緩和政策が維持される見通しで一致している。ただ、緩和効果が強いだけに米欧では資産価格が急上昇して副作用が顕在化した場合、残された政策手段で景気を腰折れさせずに対応できるのかがポイントの1つになりそうだ。

 2021年の日米欧中銀による金融政策は、新型コロナウイルスに効くワクチンの接種拡大で年後半に経済が持ち直しても、現在の強力な金融緩和政策が維持される見通しで一致している。井上哲也氏のコラム。写真は2016年9月、都内の日銀本店で撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)

また、日本では米欧のような副作用の顕在化リスクは小さいものの、国債買い入れ量を明示した米欧と比べて日本の緩和姿勢が不透明と見れば、円高になるリスクも生じるだろう。日銀の国債買い入れ方針の明確化が課題になる展開も予想される。

<米国の金融政策>

米連邦準備理事会(FRB)の12月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、国債と住宅ローン債券(MBS)の買い入れを「物価や雇用が目標に向けてさらに顕著に前進する」まで、現在のペース(それぞれ毎月800億ドル=約8兆2690億円=と400億ドル)で継続する方針を決定した。

併せて公表した経済見通しは、2021年第4四半期のコアインフレ率を1.8%、失業率を5.0%としているだけに、2021年中に資産買い入れが減速する見込みはほぼ消滅した。

すでに導入済みの「平均インフレ目標」の下では、インフレ率が2%目標を相当の期間上回るまで利上げも開始されない。上記の見通しでは2023年第4四半期のコアインフレ率を2.0%と予想し、FOMCメンバーによる政策金利予想を示す「ドット・チャート」も2023年末でもゼロ金利が維持されるとの見方が大勢を占めている。

さらに、FRBが財政資金によるリスク負担を活用しつつ実施する中小企業向けを中心とする金融支援策も、米連邦議会で審議中の追加経済対策によって、当初の期限であった本年末を越えて来年前半にかけて延長される方向にある。つまり、米国では2021年中は現在の強力な金融緩和が維持されることが確実な状況にある。

<ユーロ圏の金融政策>

欧州中央銀行(ECB)の12月理事会も、「パンデミック緊急資産買入れプログラム(PEPP)」の上限を5000億ユーロ(約63兆200億円)引き上げて1.85兆ユーロに強化するとともに、期限も2022年3月まで9カ月間延長した。2021年中に資産買い入れが停止される見込みが消滅しただけでなく、現状のペース(毎月600億ユーロ)を維持すると2022年前半に上限に達するとみられていただけに、上限の引き上げによって資産買い入れが減速する可能性も大きく低下した。

同時に公表した見通しは2023年のコアインフレ率を1.2%としているので、FRBと同じく2%目標を掲げるECBの利上げ開始は、少なくとも2024年以降になる。しかも、ユーロ圏の景気見通しは米国より厳しいだけに、市場には2021年中のマイナス金利の深掘りとの見方すら存在する。

さらにECBも「貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTROIII)」を通じた企業向け貸出の支援を2021年末まで継続するとともに、適格担保の拡大や資金供給オペの追加的実施などの補完措置も併せて維持することを決定した。このように、ユーロ圏でも2021年には現在の強力な金融緩和が維持されることが明確になっている。

<米欧の金融経済に照らした意味合い>

米欧の経済は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)患者の増加と経済活動の抑制によって、足元から2021年第1四半期には厳しい状況に陥ることが見込まれる。もっとも、FRBやECBも、年後半にはワクチンの普及とセンチメントの回復によって景気が持ち直し、米国では第3四半期以降、ユーロ圏でも2022年入り後に自律的な回復局面になると予想している。

しかも、米欧ともに経済活動が本年春時点での予想より上振れているだけに、米国では2021年後半、ユーロ圏も2022年前半にはCOVID-19以前のGDP水準を取り戻すことが期待される。

こうした中心シナリオに照らすと、強力な金融緩和が過剰に見える面もあるが、COVID-19と経済への影響にはなお不透明性が高いことに加え、実体経済の副作用―インフレの加速や過剰な消費と投資などが、顕在化する可能性は低いという判断によるものであろう。

ただ、金融の副作用には留意する必要がある。米欧ともに事業法人の負債が顕著に拡大し、シャドーバンキングが一端を支えているだけに、資産価格インフレが進んだ上で調整を迎えれば大きなストレスが生ずる。しかも、既に金融と財政の両面で政策手段を高度に稼働させているだけに、追加的に発動しうる手段は必ずしも多くない。2021年のFRBやECBにとって、もはや「自動操縦」となった金融政策よりも、金融システムの安定策が重要な課題となる。

<日本の金融経済と金融政策>

日本経済の見通しも、パターンや内容では米欧と大きく変わらない。日本の好材料は、中国や東南アジアといった主要な貿易相手先が、世界に先駆けて本来の成長を取り戻し、外需の面で寄与する見込みである。一方、COVID-19の抑制後に回復が期待される個人消費は、所得形成の弱さのために欧米ほどのモメンタムを持たないリスクがある。

日銀は12月の金融政策決定会合で、CPと社債の買い入れの追加買い入れ枠(合計15兆円)について2021年9月まで半年間延長するとともに、柔軟な運営のために枠を一体化することを決定した。また、「感染症対策特別資金供給オペ」の期限も同じく半年間延長するとともに、企業に対するプロパー貸出を行う場合、1つの金融機関当たりの利用枠の上限(1000億円)を廃止することを決定した。

これまで日銀は「量的・質的金融緩和」について、インフレ率が目標を明確に上回るまで利上げを行わない方針を明示している。最新(10月)の政策委員による見通しは2022年度のコアインフレ率を0.7%としており、次回(1月)に公表する2023年度の見通しも2%に届くとは考えにくいので、利上げ開始は2024年度以降となる。このように日本でも2021年には現在の強力な金融緩和が維持されることになるが、国債買い入れの運営には不透明性も残る。

もちろん、日銀は「イールドカーブ・コントロール」の下で長短金利を政策目標に誘導できる限り、国債買い入れの量の増減は本来は問題ではない。ただ、政府による累次の経済対策によって国債発行は急増し、しかも短期国債による緊急避難的な調達から中長期債の発行へシフトしていくことが想定される。

直ちに需給面で問題が生ずるわけではないが、市場の懸念を抑制するメッセージは必要となりうる。加えて、FRBとECBが国債買い入れの量にコミットしたこととの関係も新たな要素である。今や、日米欧は政策金利では実質的に横一線になっただけに、市場には中央銀行による資金供給の相対的な規模と為替レートとを関連付ける意見が根強く残りうる。

その意味で、日銀が今般表明した政策運営の見直しは重要であり、1つの焦点は国債買い入れの運営方針とその説明にあると思われる。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

(編集:田巻一彦)

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