April 26, 2019 / 1:12 AM / 2 months ago

特別リポート:アジアにらむ中国ミサイル増強、米空母無力化か

[25日 ロイター] - 米国をにらんで軍事力の増強を急ぐ中国は、もし対米開戦が現実になった場合、どのように軍を展開するのか。制海権を確立するには、米航空母艦(空母)への攻撃が大前提となる。その破壊計画を示唆するような映像が昨年11月、衆目の中で披露された。

中国広東省珠海で開かれた2年に1度の中国国際航空宇宙博覧会(珠海航空ショー)。大型スクリーンの上で、空母、駆逐艦、攻撃機などで構成される敵側の「青軍」艦隊が味方の「赤軍」海域に接近、「赤軍」は相手艦隊に向け陸、海、空からミサイルを発射する。

──特別リポート:中国習近平の「強軍戦略」、米国の優位脅かす

ミサイルは敵軍の駆逐艦に命中し、さらに空母の飛行甲板、船首付近の側面にとどめの一撃を加える。国営ミサイルメーカー、中国航天科技集団(CASIC)が公開したアニメーションだ。

この映像が、巨大な空母と世界各地のおよそ800もの基地によって軍事覇権を謳歌してきた米国へのメッセージであることは疑いようもない。

<米ソ対立の空白を突く>

米国が中東やアフガニスタンでの戦いに多くの兵力と資金を費やしてきた過去20年以上の間に、中国は米国からアジアの軍事覇権を奪うべく、人民解放軍の増強に惜しみなく投資を続け、軍装備の近代化を図ってきた。その成果を象徴しているのが、ミサイル攻撃力の飛躍的な向上だ。中国のミサイルの多くは、米国側である日本、韓国、台湾などの基地およびその周辺で展開する空母への攻撃を想定している。

中国のミサイル攻撃能力はすでに米国や同盟国のレベルに匹敵しているか、それを凌駕している──。人民解放軍のミサイル発射実験に詳しい米軍の現役・退役の将校や台湾、日本、中国の軍事アナリストらはそう指摘し、中国国営メディアの公表資料もそれを裏付ける。地上発射型中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの一部は、事実上、中国の「独壇場」だ。

誘導ミサイルを発射する中国軍艦。2013年、北海艦隊の司令部がある山東省青東市の沖で行われた軍事演習で撮影。(2019年 ロイター)

中国が躍進を果たした大きな理由は、中距離核戦力(INF)廃棄条約にある。同条約は冷戦時代に核戦争の脅威を避けるため米国とソ連(当時)が調印、両国は射程500─5500キロメートルの核弾頭、通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを廃棄することになっている。しかし、同条約に拘束されない中国は、その空白を突いて、このクラスのミサイルを次々と開発している。

その一例が「空母キラー」の異名を持つ「東風(DF)21D」だ。1500キロメートルの最大射程を持つ中距離弾道ミサイルで、海上を移動する空母などへの攻撃も可能(中国や欧米の軍事アナリスト)と言われる。また、最大射程4000キロメートルの「東風26」はグアムの米軍基地を攻撃できる「グアムキラー」と呼ばれる。

中国の公式機関と米国防総省が2017年に発表した中国軍に関する報告書によると、「東風26」も海上移動中の空母などを攻撃できる。さらに、地上攻撃巡航ミサイル「長剣(CJ)10」 は射程が約1500キロメートルで、韓国と日本にある米軍基地がターゲット圏内に入るとみられている。

しかし、同条約の制約を受けてきた米国には、これに匹敵するミサイルがない。中国は、極超音速対艦巡航ミサイルの「鷹撃(YJ)12」(射程400キロメートル)と「鷹撃(YJ)18」(射程540キロメートル)などでも米国に大きな脅威を与えている。

1987年12月、INF条約に署名するソ連のゴルバチョフ大統領(左)と米国のレーガン大統領。中距離ミサイルの開発と配備を禁じたこの条約は、核の脅威を低下させることが目的だったが、批准していない中国には有利に働いた。(2019年 ロイター/Dennis Paquin)

<日韓台への「飽和攻撃」に十分な規模>

中国の指導者は、人民解放軍が保有するミサイルの数を公表していないが、共産党の青年組織「中国共産主義青年団(共青団)」は2016年10月に、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)上でいくつかのデータを公表した。それによると、ロケット軍の要員は10万人、大陸間弾道ミサイル約200発、中距離弾道ミサイル約300発、短距離弾道ミサイル1150発、巡航ミサイル3000発を保有するという。

米国など西側諸国の推定では、中国はINF廃棄条約の対象となるミサイルを約2000発保有する。これは、日本、韓国、台湾の空軍基地、港湾、その他重要インフラに対し、反撃能力をしのぐ「飽和攻撃」を仕掛けるのに十分な規模だ。

こうした中国のミサイル開発に対抗するため、米国側は亜音速対艦ミサイル「ハープーン」に改良を加え、最大射程を約240キロメートルにした。しかし、米バージニア州アーリントンにある米空軍協会ミッチェル研究所の客員シニアフェローで米軍の特殊作戦軍司令部のアドバイザーを務めるロバート・ハディクは、「中国の対艦ミサイル能力は、射程、速度、捕捉・追尾において米国を上回っている。その差は非常に大きい」と警告する。

米太平洋艦隊の情報部長を務めたジェームズ・ファネルも「中国は我々がめざしている防衛システムを圧倒する能力を持っている」と指摘。「中国は世界で最も進んだ弾道ミサイル戦力を持っている」と明言した。

トランプ大統領は今年2月1日、ロシアがINF廃棄条約に違反しているとして同条約からの離脱を発表したが、廃棄対象とされているミサイルの領域では、中国の優位性が当分続くとみられている。

<米の領海接近を阻止できる自信>

習近平は、建国以来最大とされる人民解放軍の改革を断行し、トップダウンの体制を確立した。旧来の組織を改編し、戦略兵器を扱うロケット軍を「中国の戦略抑止の核心。国の安全を守る礎」として、陸、海、空と同等の軍種に格上げした。

もはや米空母は寄せ付けない、と人民解放軍幹部からは勇ましい声も聞こえてくる。ロイターがインタビューした中国指導部と関係のある人物や人民解放軍OBなど6人は、中国のミサイル能力が中国沿岸への米軍の接近を防ぐ「抑止力」になると主張する。

 4月25日、米国をにらんで軍事力の増強を急ぐ中国は、もし対米開戦が現実になった場合、どのように軍を展開するのか。写真は2015年、北京での軍事パレード。代表撮影(2019年 ロイター)

米国が11隻の空母を保有するのに対し、中国は2隻。「海では米国に勝てない」としながらも、人民解放軍の元大佐は「戦闘になれば、われわれには空母を標的とするミサイルがあり、米軍が領海に接近するのを阻止できる」と語る。

もちろん、中国のミサイル部隊の力に不安がないわけではない。まず、その信頼性や精度やペイロード(弾頭)は実戦で立証されていない。1979年の中越戦争以降、中国は戦争をしていない。これに対し、米国のミサイルは、過去20年のさまざまな戦争で繰り返し使用され、その性能は実証済みだ。

人民解放軍のミサイル発射施設、誘導システム、指揮統制センターなどが物理的な攻撃だけでなく、電子・サイバー攻撃にも太刀打ちできるかも不透明だ。ある軍事アナリストは、通称「空母キラー」の弾道ミサイルが実際に中国沿岸から遠く離れた海上の移動目標を探知し、追尾し、命中させることができるか、疑問が残ると話す。

2015年の軍事パレードに姿を見せた対艦ミサイルのDF-21D。「空母キラー」の異名を持つ。(2019年 ロイター/Andy Wong)

米軍司令官や人民解放軍ウォッチャーの中には、中国のミサイルに関する報道はその攻撃能力を過大評価しているのではないか、との指摘もある。人民解放軍の元大佐はロイターに対し、「米国のミサイルは、質、量ともにわれわれのミサイルより優れている」と語った。中国の軍事アナリストは「もし私たちが本当にアメリカより進んでいたら、すでに台湾を解放していただろう」と述べた。

<米に根本的な戦略見直し迫る>

2018年3月、太平洋軍司令官(当時)のハリー・ハリスは上院軍事委員会で「中国は西太平洋にある米軍の基地や艦船を脅かす地上発射型弾道ミサイルを保有している。その意味で、われわれは中国よりも不利な状況にある」と証言した。少なくともミサイルに関しては中国が優位に立っていることを米国が公式に認めた発言だ。

ハリスが警告する通り、中国のミサイル強化によって、米国は軍事戦略の根本的見直しを迫られている。

中国の対艦ミサイルには、米空母の艦載機による攻撃をしのぐ射程距離を持つものもある。空母が艦載機の作戦範囲外にとどまることを余儀なくされれば、作戦効果はなくなる。かといって、中国に接近しすぎると空母自体が危なくなる。

中国本土近くにおける戦いでは、もはや空母が役に立たない可能性がある、という最近まで存在しなかったシナリオが米軍を悩ませている。

天安門広場を進む艦対空ミサイル。2015年の軍事パレードで撮影。(2019年 ロイター/Damir Sagolj)

さらに、安価な中国製ミサイルが、きわめて高価な米軍艦の建造を無意味なものにしてしまう懸念もある。米海軍によると、米国とその同盟国の主力ミサイル、「ハープーン」の改良型の価格は120万ドル。中国はミサイルの価格を公表していないが、西側の軍事当局者は、中国の製造コストは米国より低く、同様のミサイルをより安く製造できると考えている。さらに、最新の米国空母「ジェラルド・R・フォード」の建造費はハープーンのおよそ1万倍となる約130億ドルにのぼる。

そうした中で、米国とその同盟国にとっての最重要課題は、中国が優位に立ち始めているミサイルの「射程戦争」での失地回復だ。

米国では、旧式の空対空ミサイルや海上発射型ミサイルの改良が行われている。ボーイング(BA.N)は対艦ミサイル 「ハープーン」 の改良に取り組んでおり、レイセオン(RTN.N)の巡航ミサイル 「トマホーク」 は対艦バージョン (射程1600キロメートル超) がテスト段階にある。

米海軍による対艦攻撃機の拡充や新兵器の開発も進んでおり、ロッキード・マーチン(LMT.N)は昨年12月、新型長距離対艦ミサイルの一連の試験が成功し、まずは米空軍に初回分を納入したと発表した。このステルス設計のミサイルは、海軍の艦船にも配備されるとみられている。

2017年11月、艦載機スーパーホーネットを先頭に、陣形を組んで西太平洋を航行するロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ニミッツの米空母3隻とその打撃群。韓国海軍の艦艇も加わった。米海軍提供(2019年 ロイター)

<真珠湾攻撃のような奇襲作戦を想定>

Google Earth(グーグル・アース)が示す2枚の画像で、中国ロケット軍が模擬攻撃の演習を繰り返している可能性が明らかになった。

中国西部のゴビ砂漠にある模擬滑走路。2013年半ばに撮影された画像には、滑走路の南端に戦闘機らしきものが写っている。約3年後、2016年後半の画像では、攻撃されたと思われる同機のデルタ翼と機体の一部が残骸となって山中に散乱している。

元米空軍情報分析官で、現在は軍事情報サービス会社ジェーンズの主席調査アナリストを務めるショーン・オコナーら衛星画像の専門家たちは、ここが人民解放軍のミサイル試射場であると特定した。

この場所だけでなく、中国西部の辺境地には、複数のミサイル試射場があり、空軍基地、燃料貯蔵施設、港湾、船舶、通信拠点、レーダーなどを模した標的に発射実験を繰り返しているとみられる。

米海軍司令官のトーマス・シュガートとハビエル・ゴンザレスが2017年に提出した報告書によると、中国の衛星画像で、米空母 「ロナルド・レーガン」 の母港、横須賀基地など在日米軍の主要施設への攻撃を念頭に置いた演習が行われた可能性があるという。

同報告は演習が旧日本軍による1941年12月のパールハーバー(真珠湾)奇襲作戦のような攻撃のリハーサルとも受け取れる、と指摘している。実際には、日本軍は米空母がパールハーバーを離れていたため撃沈できなかったが、珠海航空ショーのアニメーションは、このような日本の失態を繰り返すことはない。

赤軍のミサイルは敵軍の空母に見事に命中。そしてアニメーションは「守備的逆襲作戦は予想通りの結果をおさめた」という言葉で締めくくられた。

Slideshow (19 Images)

(文中敬称略)

日本語版編集:北松克朗、武藤邦子

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