May 15, 2019 / 5:17 AM / 4 months ago

コラム:狭まるFRB包囲網、次の一手は利下げか=上野泰也氏

[東京 15日] - 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長やニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁ら米金融当局の中枢は、現在のフェデラルファンド(FF)金利は中立水準の範囲内であり、景気・物価見通しが大きく変わらない限り適切なレベルだという見解を崩さない。

 5月15日、米連邦準備理事会(FRB)にとって次の一手は利下げであり、追加利上げは、もはやタブーに近いことが徐々に鮮明になりつつあるようだとみずほ証券の上野泰也氏は説く。写真は1日、記者会見に臨むFRBのパウエル議長(2019年 ロイター/Yuri Gripas)

そして、次の一手は利上げと利下げのいずれもあり得るとしており、パウエル議長は5月の連邦公開市場委員会(FOMC)終了後の会見で、このところのインフレ率の弱さには「一時的」要因が寄与していると述べ、2%物価目標からの下振れ長期化を警戒する保険的、予防的な利下げ観測を、結果としてけん制した(これは一種のミスコミュニケーションだったのではないかという見方も市場にあり、一定の説得力がある)。

だが、次の一手は利下げであり、追加利上げは、もはやタブーに近いことが徐々に鮮明になりつつあるように思う。

FF金利先物が5割を大きく超えるレベルで年内の利下げを織り込んでいることに、違和感は全くない。中国と繰り広げている報復関税の応酬が、米国の消費を冷え込ませるリスクも高まっている。

<政策枠組み見直しが転機に>

タイミングは不明瞭ではあるが、筆者が先行きの米利下げを予想する最大の理由は、FRBが今年予定する金融政策の枠組み見直し議論が、ハト派的な政策運営を促す可能性が高いためだ。

今回の見直しにおける最大の焦点は、断続的に報道されている通り、2%のインフレ目標が達成できない期間が非常に長期化している事態への対応だ。2%目標の引き下げ自体は議論から排除される可能性が高く、ありていに言えば、どのようにして「目標が達成できているように見せるのか」が重要になる。

有力視されているのは、テクニカルな難題を抱えた物価水準目標や名目国内総生産(GDP)目標への切り替えではなく、インフレ目標を平均的に達成させることだ。

具体的には、不況時には1.5%程度まで下振れてもかまわないとする一方、好況時には2.5%程度までの上振れを容認するというアイデアだ。インフレ目標はピンポイントなものではなく、上下両方向に許容レンジを伴うものだという点を強調する格好になる。

<日本の「二の舞」懸念>

むろん、そうしたアイデアが実際に厳密にワークするためには、政策金利の微妙なさじ加減にインフレ率がしっかり反応する、高いコントローラビリティー(操作可能性)が要求される。だがそれは、かなり非現実的な想定なので、FRBはおそらく、平均的な目標達成についても、中長期的にそうなればよいという話で済ませるのだろう。

いずれにせよ、物価目標からの下振れ長期化が、いまはアンカーされている期待インフレ率の(おそらくは不可逆的な)下方シフトにつながり、FRBの信認も低下してしまうことを、日本の事例も意識しつつ、米政策当局者はひどく恐れているように見える。

多くのFOMC参加者がそうした懸念を念頭に置く中では、政策の枠組み見直しに結論が出る前であっても、追加利上げには慎重になりやすい。

また、コアベースの個人消費支出(PCE)デフレーターが前年同月比+1.5%以下に沈む場合には、保険的な利下げを行っておいた方が(信認へのダメージを軽減する意味でも)よいのではないかという議論も浮上しやすい。

<トランプ政権に抗えるか>

この関連で見逃せないのは、トランプ米政権が物価指標の落ち着き、インフレ懸念の乏しさという好環境を強調しながら、FRBに対する利下げ圧力を強めていることである。トランプ大統領だけでなく、生粋の共和党員であるペンス副大統領までがそうした利下げ論に賛意を表明したことは、パウエル議長にとって強いプレッシャーになっているのではないか。

むろん、政治からの独立性をアピールする必要もあり、政治的な利下げ要求が高まれば高まるほど、FRBはそれと同じ行動を取りにくくなる。

しかし、米大統領選挙を来年に控え、すでにFRBに対する人事権を振りかざし始めているトランプ大統領が再選される可能性が以前よりも大きくなっている中で、パウエル議長がホワイトハウスの意向に反する行動を堂々と取り続けることができるのだろうか──。

理想論で言えば、答えはイエスだが、現実的にはノーである。

もし議長が公然とホワイトハウスに敵対する場合、FRBのありようが大統領選の争点になり、FRBがダイレクトに政治に巻き込まれてしまう恐れもある(安倍晋三首相による「レジームチェンジ」以前の日銀という前例もある)。

結局、政治に屈したのではないというロジックが成り立つ体裁で、前述した物価下振れに対する問題意識を前面に出した上で、FRBは利下げに踏み切らざるを得ないのではないか。

それら2点に加えて、グローバルに景気の勢いが弱まる中での、米国景気の減速という論点もある。1─3月期の米成長率は外需や在庫の寄与で予想よりも上振れたが、経済協力開発機構(OECD)の先行指数は、米国の成長が鈍化するシグナルを明瞭に発している。そうした状況下で、米中貿易戦争が激化する懸念が広がっている。

弱い物価指標に、主要景気指標の下振れが加われば、FRBが利下げに踏み切る可能性がますます濃厚になるだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

 5月15日、米連邦準備理事会(FRB)にとって次の一手は利下げであり、追加利上げは、もはやタブーに近いことが徐々に鮮明になりつつあるようだ、とみずほ証券の上野泰也氏は説く。写真はホワイトハウスで2017年、トランプ米大統領(左)とFRB議長の指名を受けたばかりのパウエル氏(2019年 ロイター/Carlos Barria)
上野泰也氏 みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト(写真は筆者提供)

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:下郡美紀

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