September 2, 2019 / 6:55 AM / in 13 days

コラム:保護主義に抗ったG5「プラザ合意」、拍車かけるG20=重見吉徳氏

[東京 2日] - 筆者は昨年5月の本欄で、著名投資家のジョージ・ソロス氏が1987年の著書で提示した「レーガンの帝国主義的循環」を取り上げ、ドルが支えられる可能性を指摘した。

 9月2日、1985年のプラザ合意でドル安協調を決めて保護主義に抗った当時の主要5カ国(G5)と、米国の保護主義を批判するだけの現在の主要20カ国(G20)には大きな違いがあると、JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳氏は指摘する。G20大阪サミットでスピーチするトランプ米大統領。6月29日、大阪市で撮影(2019年 ロイター/代表写真)

「レーガンの帝国主義的循環」とは、強い経済、強いドル、大きな貿易赤字、大きな財政赤字が相互に補強しあって、低インフレの高成長を生み出す正のフィードバック・ループを指す。

<G20は競って利下げ>

言うまでもなく、歴史には続きがある。それは、歯止めがかからないドル高と保護主義の高まりである。これらはやがて1985年9月22日のプラザ合意へとつながる。「帝国主義的循環」がドル高を経て、保護主義の尖鋭化に至る流れは、トランプ米政権発足以降の動きに似る。

しかし、プラザ合意の5カ国(G5)蔵相・中央銀行総裁会議と、現在の主要7カ国(G7)、主要20カ国(G20)の会合には決定的な違いがある。1985年のG5は、保護主義に対抗しつつ、経済の持続的な成長を目指すため、不均衡の是正で協調した。

実際、プラザ合意の声明には「米国の経常収支の赤字は、現在、他の要因とともに保護主義圧力に寄与しており、これに抵抗しない場合、世界貿易は縮小し、実質成長率はマイナスともなり、失業がなお増大し、債務負担のある開発途上国はぜひ必要とする輸出稼得を確保できなくなろう」、「米国政府は(中略)保護主義的措置に抵抗する」との文言がある。

一方、現在のG7やG20は、米国の一方的な保護主義をこれまた一方的に批判するのみで、声明に登場する「過度の対外不均衡に対処する」ためのアクションは影も形もない。むしろ、政策金利の引き下げによって、トランプ大統領が求めるドル安を阻止し、保護主義の火に油を注いでいる。各国の政府や中央銀行は自らの政策選択によって、世界経済が縮小均衡に向かうリスクを高めているように見える。

<協調の難しさとプラザ戦略の失敗>

保護主義やディスインフレ、格差拡大の圧力への対処を含め、各国政府が実体経済の持続的な成長を望む場合、財政政策や金融政策のほか、資本の国際移動を制限したり、テクノロジーの独占企業を筆頭に、国際的に事業を展開する企業への課税を強化したりする税制政策などで、協調する枠組みを新たに提示する必要があるだろう。

とはいえ、今後とも、政府や財政当局が自らの責務に消極的であり、「中央銀行任せ」に終始することは想像に難くない。そうした姿勢はプラザ合意当時から変わっていない。

1985年4月のシュルツ国務長官の講演に代表されるように、米当局者は保護主義を招いた国際収支の不均衡について「自国の財政赤字が最大の要因」と認めていた。しかし、米国は結局、財政赤字を削減するための積極姿勢を見せなかった。

対する日本や西ドイツも、1978年の(内需拡大と市場開放を目指した)「機関車論」が効果を得ずに財政を悪化させたこともあり、財政健全路線を維持した。オイルショックの記憶も新しく、金融緩和は困難と判断、両国はドル安調整を主たる手段と見定める。

ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長は、行天豊雄元財務官との共著書「富の攻防─円とドルの歴史」(1992年)の中で、「(プラザ)会合で私が最も驚いたのは、その後総理大臣になった日本の竹下登大蔵大臣が円の10%以上の上昇を許容すると自発的に申し出たことである。(中略)このことは会議の成功に非常に重要な影響を与えた」と振り返っている。

このように、プラザ合意では為替政策(ドル売り介入)が主たる手段であったが、翌年1月のロンドンG5以降はドル安進行とインフレの低下もあり、金融政策(利下げ)による協調が主役となる。

ジャーナリストの船橋洋一氏は著書「通貨烈烈」(1988)で、「プラザからルーブルまでの間、政策協調の一環として、蔵相たちは中央銀行総裁たちから欲しいもの、すなわち利下げを手に入れた。中央銀行に共同で圧力をかけ合うリンケージを形成し、それによって協調利下げを促進しようとしたのである」としている。

しかし、プラザ合意から始まる国際協調は徐々に効力を失う。米国によるトークダウン(ドル安誘導の口先介入)によって、ルーブル合意に代表される為替相場の安定(ドル安阻止)での協調は崩れ、大幅なドル安にも関わらず、米国の貿易赤字は一向に減らなかった。やがて、米独の金融政策協調のほころびが1987年10月19日のブラックマンデーにつながる。

こうした経緯から協調は困難との解釈もあろうが、プラザ合意に始まる協調が、保護主義への先手と時間稼ぎで成功した点は否定できないだろう。

<身を切る協調で成果を引き出す>

現在においても、国際協調は金融政策がその主たる手段となるだろう。しかし、たとえ金融政策に手段が限定される場合でも、プラザ合意と同様、保護主義に抵抗するための協調の手がかりとして、ドル安誘導を目指すことは可能だ。

それは「FRBの利下げに対して、他国が政策金利を維持することで、ドル安を目指す」方法である。他国にとって、金利据え置きとドル安は「身を切る」政策判断かもしれないが、メリットは少なくない。

ドル安は、世界経済の縮小均衡をもたらしかねない関税の掛け合いに代わって、商品市況を中心にグローバルなインフレ圧力を生む可能性がある。新興国にとっては、拡大が懸念されるドル建て債務の返済に有利である。

また、ドル安や商品市況の回復は、米政権のレトリックを踏まえれば、米企業の国際競争力を高められるほか、支持母体である農家への支援になる。原油高は、(原油が産出されない)東西両海岸の民主党支持州から、(原油やシェールが産出される)南部や中西部の共和党支持州への「補助金」にもなる。それらは米国の保護主義を抑制するための支援材料となる可能性がある。

さらに、ドル安がインフレ圧力を生めば、関税賦課や新たな財政出動(例えば給与税減税)は、かえって米政権が欲する低金利の「妨げ」と考えられる可能性もあろう。

万一、主要国によるドル安協調が、今後の発行急増への懸念とあいまって、米国債の売り圧力を生む場合には、FRBの利下げや量的金融緩和で対応できるだろう。

反対に、そのような金融政策面での協調がなければ「FRBの利下げに対して他国が利下げで追随し、ドル安が阻止されることで米国の保護主義が尖鋭化し、金融市場の下落によって、FRBが再び利下げを迫られる」という負のフィードバック・ループにより、FRBの金融緩和は「無駄打ち」に終わりかねない。それは金融市場にとっての最悪シナリオだろう。

何より、当時から現在まで、ドル安は米国の貿易赤字というファンダメンタルズによって正当化される。にもかかわらず、トランプ大統領による異例に直截(ちょくせつ)的な「トークダウン」の効果が意外なまでに乏しい背景には、他国が米国の利下げに追随することで「ドル安を支持しない」あるいは「ドル高を支持する」姿勢を明確にしており、上記のような「協調などできるはずがない」と、金融市場が高をくくっていることが挙げられるだろう。

確かに国際協調の瓦解があらわになる1987年ならまだしも、政策協調から長く遠ざかり、政策協調など不可能と思われている現状では、協調は一定の効果を持つ可能性がある。また、システム売買の隆盛や、トランプ大統領のツイートばかりに焦点が当たる「単純相場」も、政策協調に意外な効果をもたらしうるだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

重見吉徳氏 JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト(写真は筆者提供)

*重見吉徳氏は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの日本におけるグローバル・マーケット・ストラテジストで、エグゼクティブ・ディレクター。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済事務および外国債券・デリバティブ等の投資業務に従事。その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年3月より現職。

(編集:久保信博)

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