November 27, 2020 / 5:16 AM / 2 months ago

コラム:強過ぎる緩和効果、イエレン氏の手綱さばきに注目=熊野英生氏

[東京 27日] - 米株価は、11月の大統領選挙が終わり、将来の不確実性が後退して急上昇している。折しも、新型コロナウイルスのワクチン実用化が近いというニュースが相次ぎ、急増する新規感染者数に対する強い警戒も薄らいだところだった。株価の変化は、従来の見方が転換して水準訂正が大規模に行われていると感じられる。そう考えると、いったん上昇した株価が多少のショックでは崩れそうにないと理解できる。

11月27日、米株価は、11月の大統領選挙が終わり、将来の不確実性が後退して急上昇している。写真は2017年12月、ワシントンで記者会見するイエレンFRB議長(当時)(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

もっとも、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策は、株価上昇に効果的な反面、将来、緩和局面を終わらせるときに大きな資産価格の変動を起こしそうなので、そこの課題もまた、大きいと考えられる。

<物価は上昇しにくい>

今回のコロナ危機は、物価上昇が起こりにくく、過剰マネーが資産市場に流れ込みやすい環境を作り出したとみることができる。まず、消費の勢いが弱い。10月の米小売売上高は前月比0.3%増と微増だった。消費が弱いうちは、消費者物価も上がらない。11月末の感謝祭から始まるクリスマス商戦では、株価上昇による資産効果への期待感が強く、消費拡大への期待も大きい。

それでも、モノの消費は刺激されるとしても、感染リスクがあるため、サービス消費は伸び悩むだろう。サービス消費の弱さは、雇用拡大と賃金上昇を鈍くさせる。だから、賃金から物価へと波及するインフレ圧力は高まりにくい。コロナ禍においては、物価上昇圧力が強まらないロジックは以上の通りだ。

思考実験として、2021年前半からワクチンの実用化と接種が進んだと仮定して、サービス消費の増加から物価上昇圧力が高まると予想できるのかを考えたい。

ワクチンが実用化されても、サービス消費はすぐに増えないだろう。例えば、自分は予防接種をしているから安全だと思って、旅行・レジャーをすぐに再開する人は多くないのではないか。むしろ、ワクチンを接種して、人から人へのウイルス感染が広がらなくなる様子を確かめてから、人々は収束を確認してレジャーを再開するだろう。つまり、物価上昇はかなり遅れるはずだ。

<キャッシュから株への流れ>

サービスよりもモノの消費が増えると、各国の貿易取引は活発化する。この現象はすでに進んでいて、輸出増をてこに製造業の収益回復が早く展開する。これは製造業の収益を拡大させて、株価上昇にもプラスだ。

従来から、IT分野の収益は堅調だった。パソコンなどがコロナ禍でも売上を増やしていたからだ。ナスダックの好調さにも表れている。半導体市場でも5Gへの移行という需要拡大が見込める。

こうした企業収益の回復期待があって、米国の財政・金融政策による緩和マネーは株式市場に向かう。米国のマネーストック指標は、2020年10月はM1が前年比42.3%、M2が同24.2%と急激に伸びている。

FRBはコロナ禍の当初から株価を高めに持ち上げておいて、その資産効果によって消費を刺激しようと考えていたのだろう。10月までの小売売上高は「財政の崖」の懸念を感じさせるが、11月以降の株価上昇によってFRBの作戦はうまく行きそうだと思わせる。

<金融政策熟知のイエレン氏に期待と警戒>

筆者は、株価上昇を通じた消費刺激については歓迎するが、後々、緩和を手仕舞う時ときは苦労するのではないかと警戒する。8月にFRBは平均インフレ率で2%を達成するまでと方針を切り替えた。

これは、長期金利を低く抑えて、低金利の安心感を与える対応だが、物価上昇率にあまりに深くコミットし過ぎて、緩和の出口を縛る欠点があると考える。

株価や住宅価格が上昇してバブル化するときに、このコミットメントは過剰な安心感を作り、後から資産価格の上昇に注意を促した時に大きな反動を生じさせる。

こうした不安に対して、バブルが起きてもいないうちから緩和効果の効き過ぎを警戒するのはばかげていると笑う人は多いと思う。バブル懸念が現実味を帯びてから、緩和のコミットメントを修正すれば事足りるという考え方もできよう。

しかし、一方でバイデン政権になって大規模な財政出動を行うという期待が膨らみ、強い経済刺激の修正はますますFRB頼みになってきている。パウエル議長はうまく緩和の出口に向けて調整ができるのだろうか。

ダウが3万ドルを超えて、ビットコイン市場もいよいよ過熱してきた。実効ドルは緩和の広がりを反映するように、じりじりと安くなってきている。

ひとつうれしいニュースは、米財務長官として、イエレン前FRB議長が起用されるとの観測があることだ。今ほど財政・金融政策を一体化して運営すべき局面はないと思える。彼女は労働市場にも明るい。危機局面で、財政・金融政策を一体化させて考える政策フレームワークをイエレン氏ならば新しく構築できるかもしれない。警戒心と期待感の共存という変な感覚である。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:田巻一彦

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