July 30, 2020 / 6:47 AM / 12 days ago

コラム:ユーロ急騰の裏に「ドルの過剰感」、円買いに波及=唐鎌大輔氏

[東京 30日] - 長らくボラティリティを失っていた為替市場ではドル全面安の流れが強まり、ユーロおよび円が騰勢を強めている。とりわけユーロ相場の勢いが目立ち、対ドルでは1.17ドル台と約1年10カ月ぶりの高値圏で推移している。

7月30日、長らくボラティリティを失っていた為替市場ではドル全面安の流れが強まり、ユーロおよび円が騰勢を強めている。写真は米ドルとユーロ紙幣。2016年10月撮影(2020年 ロイター/Leonhard Foeger)

7月下旬にかけての加速は7月21日の欧州連合(EU)首脳会議での復興基金合意を受けたものだが、そもそも5月下旬以降、ユーロ相場は一方的に上昇してきた。また、対ドルだけではなく、名目実効為替相場で見ても、ユーロは近年で天井となってきた長期平均(1999年から現在までの平均)を突破している。こうした動きの理由はどこにあるのか。8月を前に改めて整理しておきたい。

<騰勢続くユーロ、起点は欧米金利差縮小>

ユーロが買われている理由は複数挙げられるが、起点はやはり欧米金利差の縮小にあるのだろう。例えば、米独10年金利差は、2月をピークとして急縮小に転じ、4月以降は平均100―110ベーシスポイント(bps)とそれまでの半分で推移し、足元に至っている。

だが、そのような欧米金利動向はすぐにユーロ相場を押し上げることにはつながらず、ユーロ/ドルは一時1.06ドル台まで下落し、4―5月の2カ月間は1.08―1.10ドルでのレンジで軟調な取引が続いた。しかし、6月に入ると前半の2週間で2%ほど上昇し、1.14ドル台をつける場面が散見されるようになった。その後、軟化する時間帯を挟みつつも、5月下旬を境にレンジが1.12―1.14ドルへシフトアップした。

そして、7月下旬、復興基金合意を契機として遂に1.15ドル台に乗せ、足元では1.16ドル台をあっさり通過、1.17ドル台まで駆け上がっている。ここまでの動きは文字通り急騰と言って差し支えない。

後講釈を承知で言えば、やはり4月時点で従前の半分程度にまで縮小していた欧米金利差に応じた調整が、ラグを伴って到来しているように思われる。もちろん、マイナス0.50%という先進国の中でも大きなマイナス金利幅はユーロを保有する明確なデメリットだが、過去3カ月間の「欧米金利差の変化幅」がユーロ買いを肯定するのも事実であり、これが買いの起点になった可能性は無視できない。

<過去最大の欧米成長率格差>

また、さらにシンプルな論点として「主要国の中で欧州の立ち上がりに最も期待できそうだから」という考え方もある。6月に改訂された国際通貨基金(IMF)世界経済見通しでは2020年こそユーロ圏の成長率は日米欧で最悪の仕上がりとなりそうだが、2021年にかけての戻りで言えば、日米よりも高い数字が予想されている。

ちなみに単一通貨ユーロが誕生した1999年から2019年までの21年間について、ユーロ圏の成長率が米国のそれを上回ったのは21回中7回だけだ。その際、最も両者の成長率が乖離(かいり)したのが米国同時多発テロのあった2001年であり、1.2%ポイントとユーロ圏(2.2%)が米国(1.0%)を上回っていた。

しかし、現在のIMF見通しに基づけば、2021年はユーロ圏(6.0%)が米国(4.5%)を1.5%ポイント上回ることになり、過去最大の欧米逆転という構図になる。新型コロナウイルスの感染拡大防止についても米国が欧州に大きく劣後していることは既報の通りであり、「長い目で見てドルよりもユーロの方が安心して買える」という思いが芽生えている可能性はあり得る。

<異次元の米財政拡張でドル信認低下>

しかし、欧米金利差の縮小や成長見通しの格差はあくまでユーロ買いの起点、言い換えれば「きっかけ」に過ぎないように思える。「マイナス0.50%」という政策金利の水準感を思えば、金利差が大きく縮小したからといって、それがユーロ買いを加速させる主因になるとは思えない。

ではどこにありそうなのか。筆者はここもとのユーロ加速を駆動している要因として「ドルの過剰感」に着目している。

周知の通り、米国の拡張財政路線は異次元の規模に突入している。現在、トランプ政権と米議会が3月以降で実施した財政出動は約3兆ドルと国内総生産(GDP)比で15%以上の規模に達している。この上で7月中には追加で(公式には第4弾として)約1―2兆ドルの臨時歳出が議論されている状況にある。

失業給付の積み増し延長や給与税減税などを主軸に調整が進められており、仮に約2兆ドルの追加案が決まれば、コロナ対策のスケールは約5兆ドルに達することになる。これは2019会計年度の歳出額(約4.4兆ドル)を優に超える額だ。

コロナショック以前、2019会計年度の赤字は0.9兆ドルと想定されていたので、ここに5兆ドルを加えると赤字額は約6兆ドル、すなわちGDP比で約30%という規模に達する。過去50年平均で、米国の財政赤字はGDP比で3%だったので、今年度の財政赤字は「過去50年平均の10倍」という歴史的に見ても想像すらしなかった規模ということになる。

もちろん一連の財政措置は必要かつ緊急なものであり、それ自体が悪ということはない。しかし同時に、為替市場で「ドルの信認」がテーマとなっても全く不思議ではない規模であるのも確かだ。図表にするとよく分かるが、米財政赤字(%、対GDP)とドルの名目実効ドル相場には安定した関係がある。GDP30%近くまで赤字が膨らむ目先の局面において、ドル高を予想するのは相当勇気が要るというのが筆者の基本認識である。

<ユーロ以外にドル売りが波及する可能性>

当面の為替相場に関し、「米財政赤字の対GDP比率上昇に伴ってドル相場が下落する」シナリオを前提にするのであれば、今後の為替見通しにおいては「ドル売りの受け皿は誰になるのか」を考えることが重要になる。

現状、IMM通貨先物取引に反映される投機筋のポジションを見ると、既にユーロ買いはあまりにも速く、高く積み上がり過ぎている印象が強い。「買われ過ぎているから売られるはず」という見方は粗過ぎるが、ユーロが世界有数のマイナス金利通貨であることを踏まえれば、ここからのユーロ上昇は急落と背中合わせという気持ちは持っておいた方が良い。

片や、円の買い持ち高は穏当な水準に抑えられており、カナダドル、豪ドルといったその他主要通貨に至ってはまだ売り持ちされている。こうした状況下、ユーロ以外の通貨にドル売りが波及してくる展開に備える局面だと筆者は考えている。事実、ユーロ買いのペースが徐々に落ち着く中で円相場が連騰しており、対ドルでは断続的に105円を割り込んでいる。「ドル売りの受け皿」に関し、円にお鉢が回ってきたのではないだろうか。

話をユーロ/ドルに戻せば、目先のポジション調整は警戒されるものの、「ドルの過剰感」に根差したドル全面安が潮流を作る中で7―9月期中に1.20ドル台へ手をかける可能性は十分あると考えている。その際にはユーロだけではなく円高も100円近辺まで進んでいるだろう。

逆に、「ドルの過剰感」にもかかわらず、ドル相場がはっきりと値を戻してくる展開があるとすれば、それは3月中旬に見られたように、強い不安感からドル調達圧力が急激に高まる「真のリスクオフムード」が到来した時だろう。

そのような状況に至らないことを心から祈るばかりである。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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編集:橋本浩

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