November 28, 2019 / 11:19 PM / 7 days ago

コラム:FRBで始まった枠組み見直しの議論、「金利コントロール」に脚光=井上哲也氏

[東京 29日] - 米連邦準備理事会(FRB)による金融政策の枠組み見直しに関する議論は、学界や財界といった外部との意見交換がおおむね一巡し、連邦公開市場委員会(FOMC)の中での議論がいよいよ本格化している。

 11月29日、米連邦準備理事会(FRB)による金融政策の枠組み見直しに関する議論は、学界や財界といった外部との意見交換がおおむね一巡し、連邦公開市場委員会(FOMC)の中での議論がいよいよ本格化している。写真は2018年9月、ワシントンで記者会見を行うパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長(2019年 ロイター/Al Drago)

先ごろ公表された10月会合の議事要旨によれば、3本の柱(インフレ目標、政策手段、コミュニケーション)のうち、今回は政策手段に関する詳細な議論が行われたようだ。

このテーマに関する議論は、少なくとも議事要旨を見る限り、7月会合に続いて2回目であり、より詳細な検討が行われている。つまり、7月会合では、執行部がフォワードガイダンスと量的緩和の発動事例やその効果に関するFRB側の分析を示し、FOMCメンバーがこれに基づく議論を行うことにとどまっていた。

筆者は、執行部とFOMCメンバーの双方がこれらの効果をほぼ手放しで評価しただけでなく、これら2つの手段だけに焦点を当てたことにも違和感があった。

その意味でも、10月会合でマイナス金利や金利コントロールを含めた幅広い手段が俎上(そじょう)に載せられたことに納得感があるし、かねてパウエル議長やクラリダ副議長が海外の事例も含めて検討すると説明してきたこととも整合的である。

<マイナス金利への懸念>

今回新たな検討が加えられた2つの手段のうち、マイナス金利に対しては明確に否定的な議論がなされたことが印象的だ。

議事要旨によれば、執行部は日欧を念頭に海外ではマイナス金利が相応の効果を発揮したことを認めつつ、副作用もみられることや、日欧と米国では金融市場や金融システムの構造に大きな違いがあることに言及し、マイルドな形で疑問を示したようだ。

これに対してFOMCメンバーは全員が懸念を示し、その理由として、執行部が指摘した海外と米国との金融市場や金融システムの構造的な違いに加えて、1)金融機関や家計、企業の行動に対する影響に不確実性が高い、2)金融市場のかねてからの機能低下を悪化させるリスクがある──といった点を挙げている。議事要旨には明記されていないが、金融市場の機能低下という懸念には、本稿でも以前に取り上げたレポ金利の高騰が関係しているとみられる。

マイナス金利に関しては、米国内の実務家からも強い懸念が示されることが多い。それだけにFOMCメンバーが全会一致でマイナス金利に否定的であるのも、トランプ大統領の口先介入に対する政治的反発といったレベルではなく、米国内の「マイナス金利嫌い」に関する強いコンセンサスを反映したものと見るべきだろう。

<フォワードガイダンスと量的緩和>

これに対し、フォワードガイダンスと量的緩和には、特に執行部が引続き高い評価を与えている。

このうち、フォワードガイダンスについては、抽象的な条件、期限に関する条件、経済指標に関する条件の3つのパターンを示し、各パターンに関する推計結果をもとに有効性を示唆したようだ。

これに対してFOMCメンバーからは、FRBが経済の先行きに悲観的なシナリオを持っているとの誤解を与える可能性や、経済指標に関する条件について適切な理解を得ることの難しさなどが指摘されたようだが、全体としては執行部のポジティブな理解に同意した。

量的緩和に関しても、執行部は以前と同じく高い評価を維持しただけでなく、外部専門家からの指摘が多い政策効果減衰の可能性─量的緩和第1弾はインパクトがあったが、第2弾、第3弾と徐々に効果が減衰した─との懸念までも払拭する、強気の理解を示したようだ。

こうした主張にはFOMCメンバーからも、違和感も示されたようだ。しかし、全体としては執行部の評価を受け入れたようだ。

FOMCメンバーの一部からはより本質的な懸念として、長期金利が過去の局面より低位な水準から量的緩和を開始した場合にも、過去と同様の効果があると考えてよいか、という指摘がなされた点も注目される。

<金利コントロールの可能性>

その上で、FOMCメンバーは長期金利コントロールの可能性も議論している。興味深いことに、議事要旨にはこの点に関する執行部の意見や評価が記載されていない。マイナス金利を事実上放棄し、しかも将来の量的緩和の効果にも若干の不透明性が意識されたことが背景と推察される。

具体的には、少数のメンバーがこの手段を支持し、政策の波及効果が明確である点や、市場の信認を得た場合に資産の買入れ規模が少なくてすむことをメリットとして指摘した。

これに対して多数のメンバーは、短期の中立金利ですら正確な推計が難しいに長期金利の目標を適切に設定する困難さや、市場の信認を得られない場合には想定外の資産買い入れを余儀なくされてFRBのバランスシートに負荷がかかること、国債管理政策(ひいては財政政策)との関係について誤解を招くといった点を挙げて否定的な見方を示した。

長期金利のコントロールによるメリットと懸念に関するこうした議論も、かねて活発に議論してきた日本の関係者にとって目新しい点は含まれていない。

しかし、日米の国債市場構造の違い(米国は海外投資家のウエイトがはるかに大きい)や、米国債市場の機能低下の深刻化、トランプ政権による財政拡張の下での財政ファイナンスへの懸念といった理由から長期金利のコントロールにも、マイナス金利のようなアレルギーがあると見られていたFOMCにおいて、こうした議論が行われ、しかも一部が支持を表明したことは決して小さな変化とは思えない。

実は、議事要旨が明示しているように、FOMCメンバーもフォワードガイダンスと量的緩和の組み合わせによって、「より短期」の金利をコントロールする可能性にはより広い支持を示したようだ。

具体的にどのような年限が想定されているのか現時点で明らかでないが、日銀のような10年物金利よりも短く、短期の政策金利に対するシンプルなフォワードガイダンスの時間的視野を超えるとすれば、2─5年といったゾーンが想起される。

いずれにせよ、来年前半に向けてFOMCでこの手段がどのように議論されるかが注目される。

その際には日本国内での経験を踏まえ、金利コントールにはいったん導入すると調整ないし解除が難しいという難点があることも、是非とも考慮に加えて欲しいように思う。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

井上哲也氏

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。

(編集:田巻一彦)

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