September 15, 2020 / 7:54 AM / 16 days ago

コラム:「スガノミクス」は円安を維持できるか=佐々木融氏

[東京 15日] - 14日の自民党総裁選で、菅義偉官房長官が新総裁に選出された。16日召集の臨時国会で首相に指名されることになる。

9月15日、アベノミクスの下で目立った経済政策の功績は何かと聞かれれば、「円安」と答える人がは多いのではないだろうか。写真は2016年8月、都内でロイターが主催したイベントで、スクリーンを前に写真撮影に応じる菅義偉氏(2020年 ロイター/Issei Kato)

2012年12月26日から7年9カ月続き、歴代最長政権となった第2次安倍晋三政権は、「大胆な金融緩和政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢・アベノミクスを政策運営の柱としてきた。そもそも、金融政策を政権の政策として掲げること自体にやや違和感を感じたが、それがアベノミクスの特徴であり、最も成功した政策の1つだったかもしれない。

実際、アベノミクスの下で目立った経済政策の功績は何かと聞かれれば、「円安」と答える人がは多いのではないだろうか。円の実質実効レートは、過去7年9カ月間で16%下落しており、現状のレベルは1990年以降の平均を21%も下回っている。

大きく円安に振れたのは最初の2年間程度であったが、その後も実質金利を大きく押し下げ、対外投資を活発化させることによって、円安水準を維持することができた。

菅政権の下における「スガノミクス」でも、金融政策に対するスタンスには変更がないと考えられるため、この部分は政権交代を理由にした影響はないだろう。もっとも、新型コロナウイルス感染拡大によって、各国が大幅に金利を引き下げていることや、経済の先行き不透明感を理由に日本からの対外投資が縮小すると考えられ、菅政権の金融政策に対するスタンスとは関係なく、現在の円安水準を維持することは難しいと考えられる。

<長期政権が円安維持に効果>

そうした状況下にあっても、長期的な安定政権になることが円相場の一定程度の安定につながることにはなるだろう。第2次安倍政権同様、2001年4月─2006年9月まで5年半の安定政権だった小泉純一郎政権の時も、実効レートベースでは円安基調をたどっていた。

その後、6人連続で毎年首相が交代していた時には円が上昇し、円高水準で推移し続けた。政権が長期間安定した方が、日本の企業・投資家が安心して対外投資を行うことができ、急激な円高進行を一定程度は防ぐことができると考えられる。衆院解散・総選挙の可能性も取りざたされているが、いずれにしても、小泉政権と第2次安倍政権の間のように毎年首相が変わるような事態となると、当時と同様に円高圧力が増す可能性がある。

<ドル/円を動かす日米関係>

今回の政権交代が円相場に大きな影響を与えるとしたら、それは日米関係の変化からだろう。ドラスティックな外交政策を進めてきたトランプ政権との間で大きなあつれきも生じずに日米関係が安定していたのは、安倍首相とトランプ米大統領の個人的な関係に依るところも大きかったと考えられる。

歴史が示すように、日米関係はドル/円JPY=EBS相場にしばしば大きな影響を与える時がある。例えば、1993年1月からスタートしたクリントン政権は、最初から日米貿易不均衡解決のために円高を求める口先介入を続け、ドル/円相場は大きく円高方向に振れた。

近年では、オバマ政権下の2016年4月に米国が為替報告書で日本を監視リスト入りさせたり、当時のルー財務長官と麻生太郎財務相が、円高局面で円相場に対して異なる見解を発したことなどにより、円高が進んだりもした。

また、トランプ大統領は就任直前の2017年1月初めにトヨタ自動車 (7203.T)のメキシコ工場建設を非難。就任直後には環太平洋連携協定(TPP)からの離脱も発表した。このあたりから円高基調が始まり、結局、ドル/円相場は2017年1月の水準を超えられていない。

菅次期首相は安定した日米関係を維持するためにも、トランプ米大統領との個人的な友好関係を新たに築く必要があるだろう。さらに11月の米大統領選挙ではトランプ大統領が敗れ、バイデン新大統領が誕生する可能性もあり、菅次期首相は難しいかじ取りを迫られる。米中関係も微妙な中で、日本の外交が不安定化することは、円相場の不安定化にもつながる。

菅次期首相は経済に対する影響から円相場を重要視していると言われている。ただ、それは歴代首相も基本的には皆同じだ。円相場の動きにとっては、日本や各国の金融経済の状況に加えて、国際収支フローなどのファンダメンタルズが重要だ。また、円高阻止を狙った為替介入は経済政策ではなく、日米関係という政治が大きく影響する。

小泉政権下の2003年─2004年3月かけて現状レベルよりも円安水準で、ほぼ毎月合計35兆円もの大量の円売り介入が行われた一方、首相が毎年交代し、政権も自民党から民主党に交代した2009年から2010年にかけて、ドル/円相場が100円から80円台まで下落する中でも介入が実行できず、83円台まで下落した2010年9月に1日だけ、それも2兆円程度の円売り介入しかできなかった例などをみても、介入が円相場の水準ではなく、日米関係の影響を強く受けていることは明らかだ。

そもそも円売り介入で、円高の動きを止められたことはない。しかし、日米関係が不安定化し、効かない介入でさえできないだろうとの思惑を強めることは、投機筋に円高方向への動きを確信させることになる。ドル/円相場安定のためには、経済のファンダメンタルズに加えて、米国との良好な関係を維持することも非常に重要なのである。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木融氏

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:田巻一彦

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below