September 30, 2020 / 5:22 AM / a month ago

コラム:勝者決まらない米大統領選なら、市場変動拡大へ=上野泰也氏

[東京 30日] - 11月3日に投開票が行われるアメリカ大統領選挙。世論調査では民主党候補のバイデン前副大統領が共和党のトランプ大統領をリードしているものの、再選を目指すトランプ氏が追い上げており、激戦州ではほぼ互角という調査結果も出ている。いわゆる「隠れトランプ」の存在が今回も指摘されており、選挙結果は接戦になるという見方が多い。日本時間の30日午前、オハイオ州で行われた1回目を皮切りに3回行われる討論会は、両陣営のどちらにとっても大きなミスは許されない。

9月30日、11月3日に投開票が行われるアメリカ大統領選挙。世論調査では民主党候補のバイデン前副大統領が共和党のトランプ大統領をリードしているものの、再選を目指すトランプ氏が追い上げており、激戦州ではほぼ互角という調査結果も出ている。写真は29日、オハイオ州クリーブランドで行われた第1回討論会 で撮影(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

しかも、新型コロナウイルスに感染するリスクを警戒して、今回は郵便投票を選ぶ有権者が多くなる可能性が高い。最近行われた予備選の事例からみると、郵便投票の部分の開票作業は事務的にかなりの時間がかかりそうだ。

<両陣営が勝利宣言の可能性も>

開票結果で勝敗が僅差の場合、負けている陣営からの要求で再集計に持ち込まれる州も出てくると予想される。したがって、一般投票が終わってから少なくとも数日間ないし数週間は、両陣営が勝利宣言を行って勝者が確定しない「宙ぶらりん」の時間帯が続くのではないか。

しかも、トランプ大統領は自らの負けは、あくまで認めない姿勢を示しており、これが大きな波乱の種になり得る。23日の記者会見で大統領は今回の選挙に関し「連邦最高裁で決着がつくことになると思う」と発言した。選挙結果が自らの負けと出た場合には、郵便投票で大規模な不正があったと主張するなどして提訴し、最終的には連邦最高裁での決着を図る意向のようである。

ギンズバーグ米連邦最高裁判事の死去で生じた判事の空席に保守派のバレット氏を急いで充てようとしているのは、トランプ大統領にとり、重要な選挙対策という位置付けなのだろう。大統領選の決着が法廷に持ち込まれる場合に自らに有利な判決が出やすくするとともに、大統領選における共和党内の支持固めの狙いがある。

<平和的政権移行に言及しないトランプ氏>

さらに「平和的に政権交代に応じると約束できるか」という質問に対し、トランプ大統領は「何が起きるか見なければならない」と回答して、コミットするのを拒んだ。この一幕について英経済紙フィナンシャルタイムズは、選挙結果を受け入れると述べようとしないトランプ大統領が「平和的な政権移行」にもコミットしないというところまで、一歩踏み込んだと指摘した。

平和的でない政権移行には、法廷の場で雌雄を決するというパターンがある。ブッシュ(子)対ゴアの戦いになった2000年の米大統領選で、実際に起こったことである。この時は連邦最高裁による自身に不利な判決を受け、民主党のゴア候補が撤退の道を選択。事態が収拾された。

しかし、トランプ氏に「名誉ある撤退」を選ぶだけの度量があるだろうか。筆者には疑問である。熱狂的なトランプ支持者たちが、そうした撤退をトランプ氏が選ぶことを許さない空気を作り出すことも考えられる。

<最悪のシナリオは左右両派の衝突>

そして、次の大統領が確定しない「宙ぶらりん」の時間帯は、一部で言われるような「政治空白」ではない。21年1月20日まではトランプ氏が現職の大統領として権力を握っており、治安維持を名目に、デモ隊を鎮圧させるため連邦軍を出動させる権限を有している点にも留意が必要だ。米国の識者らがおそらく内心で最も恐れているのは、街頭で武力が用いられるところまで事態の混迷が深まるケースだろう。

ウィスコンシン州ケノーシャで8月下旬に見られたように、米国では右派と左派の双方で、武装する過激な人々が現れている。

トランプ大統領を支持する保守的な考えの持ち主で、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」のスローガンの下に人種差別に抗議するデモ隊に力で対抗しようとする「ミリシア」と呼ばれる自警団がある。8月25日にはミリシアに所属する17歳の少年がデモ隊に発砲し、2人が死亡する事件が起こった。「法と秩序」を強調するトランプ大統領は、このミリシアの暴力を容認するような発言を行っている。

一方、左派の側では、「アンティファ」と呼ばれる過激なグループの存在が知られている。20代の白人が主体で、反ファシズムを標榜し、無政府主義者や急進左派が多く参加しているとされる。

合衆国憲法では、各州内の秩序を維持する権限は通常、州知事にある。だが、1800年代初頭に成立した「反乱法」はその原則に対する例外であり、米国の法律の正常な執行を阻む「内乱」を鎮圧するため、大統領が連邦軍を派遣することを認めている。直近でこの法律が発動されたのは、1992年のロサンゼルス暴動の際である。

専門家によると、大統領による同法発動に対して異議申し立てを行ったとしても、成功する可能性は非常に低い。過去の判例では、裁判所が連邦軍に関する大統領の宣言を事後的に批判することには非常に消極的だったという(6月3日 ロイター〔情報BOX〕)。しかも、連邦最高裁は今回の空席補充を経て、ますます保守派優位の構成になると見込まれる。

トランプ大統領は6月1日、人種差別抗議デモが全米で激化して一部が暴徒化した状況に対し「州当局の対応が不十分なら、連邦軍を動員する」と宣言。軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長をデモ対応の責任者に据えると表明した。エスパー国防長官が強く反対したため、実際は連邦軍の出動には至らず、首都ワシントン近郊に集められた1600人の部隊は撤収したのだが、こうした前例があることから、大統領選挙の決着がなかなかつかず、分断状態の米国内が騒然とする中で、連邦軍が出動する可能性が意識される。

<リスクに直面するマーケット>

前例のない混迷状態に米国が陥る場合、マーケットでは気迷いが続きやすい。政治の安定は取り戻されるのか。21年1月20日に新しい政権がスタートできるのか。その場合、米国内の社会秩序の安定は保たれるのか──。

様々な思惑が交錯し、日々入ってくる新たなニュースに市場参加者が一喜一憂する、振れの大きな展開が予想される。短期売買を繰り返して収益を狙うプレーヤーには、腕の見せどころ到来と言えそうである。

もっとも、米国という国家自体が分裂するという話ではない。そのあたりは、離脱する国が出てきたEU(欧州連合)や、スコットランド独立問題を抱える英国などと、大きく違う部分である。

そして、米国のドルは、他に並ぶものが見当たらない基軸通貨である。米国債は、たとえ金利水準が以前よりかなり低くとも、「リスクオフ」の際にマネーの逃避先としての地位に揺らぎはない。

ドル/円JPY=EBS相場について言えば、左派と右派の衝突が激化するなど米国内の情勢不安が強く意識される場合、100円に迫る場面があるかもしれない。だが、上記の理由からドルの底堅さは維持される可能性が高い。下値では買い戻しが入るだろう。

その一方で、不安定化した米国のドルをどんどん買い上げる理由も乏しい。最終的には、多少のレンジの変動はあるにせよ、ドル/円は一方向に大きく動きづらいという基本的な構図に変わりはないのではないか。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

上野泰也氏

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:田巻一彦

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below