November 26, 2020 / 1:35 AM / 2 months ago

コラム:イエレン氏の目指すポリシーミックスは何か=上野泰也氏

[東京 26日] - 外為市場は、米大統領選挙という今年最後の大きなイベントを意外なほど平穏に通過した。そして、バイデン次期大統領が財務長官に指名の意向と報じられているイエレン前米連邦準備理事会(FRB)議長が就任後にどのような為替政策を志向するのかに、関心を寄せ始めている。

11月26日、外為市場は、米大統領選挙という今年最後の大きなイベントを意外なほど平穏に通過した。写真は2017年12月、ワシントンで記者会見するイエレン氏(2020年 ロイター/Jonathan Ernst)

イエレン氏は労働経済学の専門家であり、議長や副議長としてFRBに在籍していた際はハト派として知られていた。景気回復につれて雇用情勢が改善してきたとしても、低所得層も含む社会の隅々にその恩恵が行きわたるまで、インフレ圧力がよほど強まる恐れでもない限り、引き締めへの政策転換はできるだけ待つ方がよい──。

そうしたイエレン氏の考え方は、平均インフレ目標の採用を通じて雇用最大化への目配りを従来よりも増したパウエル議長率いる現在のFRBの政策運営方針と、親和性がある。イエレン体制に移行した後の米財務省は、FRBと良好な関係を築くだろう。

<日米で酷似する統合型のマクロ政策>

大規模な財政出動のファンディングで大量に増発される米国債のうち、長期金利の上昇抑制に必要な部分を、FRBが着実に買い入れる──。このような実態として財政ファイナンス(中央銀行による国債引き受け)に近いポリシーミックスが、バイデン次期政権の下でも続けられていく可能性が高い。

累増する米国の債務残高という点からも、そうした財政政策と金融政策の共同歩調は避けられない道筋だと言えるだろう。超党派で政策提言を行っている民間シンクタンク「責任ある連邦予算委員会」は10月7日に発表した報告書で、バイデン氏の選挙公約をもとに向こう10年間の米国の財政への影響を試算した。

政府債務残高は中央値で5兆6000億ドルも膨らみ、国内総生産(GDP)に対する比率は128%になる。長期金利(10年米国債利回り)が上昇すると利払い費が膨らんで毎年の財政赤字幅が一段と拡大してしまう、苦しい未来図である。

そこで、FRBが国債を大量に買い入れることにより需給を引き締めて、長期金利を低水準に押さえ込む。だが、それが財政ファイナンスだとは、FRBは認めようとしないだろう。量的緩和はあくまで金融政策の都合や必要性から行っているものであり、連邦政府の資金繰りを助けることを意図したものではない、という説明が繰り返されるとみられる。

これは、日本ですでに何年にもわたって起こっていることの「米国版」である。日本の政府債務残高のGDP比は230%を超えてもなお悪化を続けているが、国の予算を見ると、利払い費を含む国債費は20年度当初予算で23兆円台にとどまっており、あまり増えていない。長期金利が低水準にとどまっているから、財政の安定運営が可能になっているわけである。

むろん、長年にわたって日本の長期金利が低下基調で推移してきた主因は、慢性的なデフレと日銀によるたび重なる利下げなのだが、近年は、異次元緩和で日銀が債券市場への「介入」を強化し、財政面のリスクプレミアムを押さえ込んでいる影響もある。 そして、日銀のそうした行動はあくまで「物価安定の目標」達成を目指すなど金融政策の狙いに沿った対応ものだというのが、黒田東彦総裁が繰り返している説明である。 以上のように考えると、バイデン政権になってからも米国のマクロ経済政策の根幹部分に大きな変更はなく、FRBの「日銀化」にも変わりはなさそうだという話になる。

<為替政策は自然体>

さらに言えば、いわゆる「ドル高政策の看板」をバイデン次期政権下で財務省が明示的に降ろすようなことも、極めて考え難い。経常赤字国である米国は、国外からの安定的な資本流入を確保することも意識する必要がある。ドル安誘導的なアピールを米国自らが強く行うことは、「タブー」に近い。

米国の次期政権の為替政策はいわば「自然体」の運営になり、ドル高・ドル安のどちらか一方に政策として相場を強引に持っていこうとするようなものにはならないだろう。したがって、ドル/円について筆者が従来から提示してきた相場観を変える必要はない。日米の中央銀行の金融政策は内容が似通っており、金利水準の差も小さい。ともに逃避通貨であるドルと円は明確な差別化が難しく、100─110円程度のレンジで方向感が出にくい取引が続くだろう。

では、円以外の通貨に対する取引も含めたドル指数はどうか。米国株が官製バブル的な騰勢を維持する場合、市場全般がリスクオンに傾斜し、「種銭」であるドルが売られてユーロ、豪ドル、新興国通貨などが買われる結果、ドル指数は下落しやすい。だが、そうした場合でも、対円でのドルは底堅いだろう。

コロナワクチン関連の明るいニュースをはやした米国株の上昇は、あまりにもペースが速く、何らかのきっかけがあれば調整する余地が大きいように見受けられる。ワクチンの有効性・安全性に疑念が生じたり、接種率がなかなか上昇せず集団免疫への到達が困難になるなどして、米国株の下落幅が大きくなるようであれば、市場はリスクオフに傾斜して、ドルが全般に買い戻されるだろう。

もし、市場のリスク認識が非常に高くなるなら、基軸通貨としてのメリットが再認識されたドルが、急上昇する可能性もある。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

上野泰也氏

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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