July 29, 2020 / 4:56 AM / in 15 days

コラム:危いドル安相場の深追い、重要な4つの注目点=上野泰也氏

[東京 29日] - ドル安の流れがこのところ続いている。米連邦準備理事会(FRB)が公表しているドル名目実効レートのうち、対先進国通貨の指数(2016年1月=100)は、7月24日に107.8095になった。3月23日に付けた年初来高値(117.0314)から8%弱の下落であり、年初の水準をすでに下回った。

3月29日、ドル安の流れがこのところ続いている。米連邦準備理事会(FRB)が公表しているドル名目実効レートのうち、対先進国通貨の指数(2016年1月=100)は、7月24日に107.8095になった。写真は米ドル紙幣。ワルシャワで2011年1月撮影(2020年 ロイター/Kacper Pempel)

ドル/円JPY=EBS相場もドル安方向に動いており、28日には一時104.96円になった。もっとも、筆者がコアレンジとみている105─110円前後から大きく外れたわけではない。また、年初来ドル安値101.18円(3月9日)までの距離はまだ、かなりある。

ドル安が特に目立つのは、対ユーロにおいてである。ユーロ/ドルEUR=EBS相場は7月27日に一時、18年9月以来のユーロ高・ドル安水準である1ユーロ=1.1781ドルになった。

ユーロがここにきて買い進まれている理由として言われているのは、主に以下の4点である。

1つ目はEU(欧州連合)首脳会議が復興基金7500億ユーロ創設で合意にこぎつけたことが、懸案である財政面の統合に向けて一歩進んだと、前向きに評価されていること。

2つ目は新型コロナウイルス感染者数の増加ペースが米国で加速しており、すでに大きな峠は越えたとみられている欧州に比べると、足元の状況は明らかに厳しいこと。

3つ目はそうした感染状況の違いゆえに、金融市場が抱いている景気回復への期待感は現在、米国よりも欧州に対しての方が大きくなっていること。

4つ目は米国と中国の対立が総領事館の閉鎖合戦という形で激化しており、これは米国経済ひいてはドルにとってネガティブな材料とみなし得ることだ。

3つ目との関連では、実際に出てきた米欧景気指標の対照的な数字が、市場で格好の材料になった。IHSマークイットが7月24日に発表したユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)速報値は、総合が予想比上振れの54.8(前月比プラス6.3ポイント)。節目の50を大きく超え、2018年半ば以来の水準である。内訳は、製造業が51.1、サービス業が55.1で、ともに50を超えた。

これに対し、同じ日に発表された米国のPMI速報値は、総合が50.0(前月比+2.1ポイント)にとどまった。内訳は、製造業が51.3、サービス業が49.6である。ともに前月から上昇したものの、後者は50に届かなかった。

米国では、感染第2波の懸念が強まる中で、西部や南部の州を中心に経済活動再開のプランが停止もしくは後退を余儀なくされており、個人消費のリバウンドがはかばかしくないことを示唆していると思われる。

このように、ユーロ高・ドル安進行にはさまざまな理屈付けがされているわけだが、筆者としては、どうもしっくりこない。

上記の1つ目に関して言えば、マラソン協議を経てEU首脳による合意は薄氷を踏むようなものであったことが、その後明らかになっている。返済が不要な補助金は当初案の5000億ユーロから3900億ユーロに減額され、低利融資での供与が3600億ユーロになった。それでもオランダをリーダー格とする「倹約4か国」の姿勢はなかなか軟化せず、フィンランドを加えた5か国は改革が伴わない国への安易な資金移転に関し、最後まで強く抵抗した。

EUが長年の課題である財政面での統合に向けて一歩進んだことは事実だが、その後も順調に進み続けるかどうかは現時点では判然としないというのが、中立的な評価

少なからぬEU加盟国で勢力を増しているポピュリスト政党の動向次第では、財政統合に向けた動きが全く進まなくなってしまう恐れもある。

2つ目や3つ目について言うと、感染状況でこの先も米国の劣位・欧州の優位が続くとは限らない。新型コロナウイルスに有効なワクチンを、どの国の企業が最初に開発・実用化して認可を受けるのか。増産する場合の国別の配分や予防接種の実施ペースはどうなるのか。ワクチンで作り出される抗体は何カ月程度有効で、時間が経つと何割かが消えてしまうことへの対策を、各国はどのように採るのか──。現時点でわからないことがあまりにも多い。

さらに言えば、米国ではこの先、マスク着用が広がった効果もあって、感染者数の増加ペースが鈍ってくることが見込まれる。米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は28日、米国内の感染状況について、フロリダ州やカリフォルニア州などこのところ感染が急拡大した一部の州では、ピークを付けつつあると述べた。

一方、欧州のいくつかの国では、足元で感染第2波到来の懸念が増している。早い段階でそのことをきちんと整理して取り上げていた7月26日付朝日新聞朝刊の記事では「新型コロナウイルスの感染のピークを越えたフランスやスペインで感染者数が再び急増し、外出禁止令を課していた4─5月の水準に戻り始めている。第2波を懸念する政府は空港での検査を義務づけるなどの対策に乗り出している」と伝えていた。

事態はさらに悪化しており、「ウイルスに国境はない」ということを、市場の中にいる人も外にいる人も、肝に銘じる必要があるように思う。

「鎖国状態」をいつまでも続ける、あるいは新型コロナウイルスに有効なワクチンが普及して世界的に「集団免疫」状態を維持できるのならば話は別だが、そうでないなら、ある特定時点における国ごとの感染状況の差異は、決定的な意味合いまでは持たないのではないか。

残る4つ目のポイントについては、米中の対立深刻化が、今後も随時新たな動きを見せるだろう。ただ、間違いなく1つ言えることは、米中はともに核保有国であり、「冷戦」の域から踏み出して「熱戦」にまで至ることはなさそうだ、ということである。

また、トランプ政権は秋の大統領選をにらみ、「わかりやすい敵」である中国をたたきにいっている面がある。大統領選の結果を踏まえ、米中対立は仕切り直しになるかもしれない。

このように考えてみると、今回の対ユーロを中心とするドル安局面での「深追い」には危うさがつきまとっていることが、自ずと理解されるだろう。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

上野氏

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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