July 25, 2019 / 2:18 AM / in 2 months

オピニオン:FRB「予防的利下げ」後の世界経済を読む=青木大樹氏

[東京 25日] - 米連邦準備理事会(FRB)は、30─31日に開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)で約10年ぶりの利下げを決定するとみられるが、これは予防的な措置であり、今後景気後退に陥る可能性は低いと、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は分析する。

7月25日、米FRBは、30─31日に開かれるFOMCで約10年ぶりの利下げを決定するとみられるが、これは予防的な措置であり、今後景気後退に陥る可能性は低いと、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の最高投資責任者(CIO)、青木大樹氏は分析する。写真はワシントンのFRB本部。3月撮影(2019年 ロイター/Leah Millis)

とはいえ、世界経済が成熟化するなかで米国や欧州の経済成長率の伸びしろは限られており、投資戦略もそれを踏まえたポートフォリオの多様化が必要になる。また、米中の技術の覇権争いに伴う経済の二極化の影響にも注意を払う必要があると指摘する。

同氏の見解は以下の通り

<何のための利下げか>

市場は、FRBが今月のFOMCで利下げすることを既に織り込んでいる。UBS証券でも、FRBが7─9月期に合計50ベーシスポイントの利下げをすると予測している。そこで関心を集めるのが、この利下げが景気の後退に伴うものなのか、それともそれを防ぐための予防的措置なのか、という点だ。

まず景気の現状だが、経済協力開発機構(OECD)が主要国の経済指標に基づき、国内総生産(GDP)などに6カ月先行するように作成している「景気先行指数」によると、2015年以降の景気サイクルは中国が先行し、3─7カ月程度の遅れを伴って日米欧がその動きを追っている。そして中国の指数は2019年1月に底打ちし、そこから上昇基調に転じており、日米欧でもボトムアウトしてくると考えられる。

ただ、米国が5月に2000億ドル相当の中国製品の関税率を10%から25%に引き上げたため、その影響が今後若干出てくる。このため、明確にボトムアウトしてセンチメントが強くなるのは若干遅れる可能性があるが、それでも9月から11月にかけて強く戻してくるだろう。

米国の景気後退懸念についても、米株価と連動性が高いISM製造業新規受注指数に着目すれば、悲観的になる必要はないことが分かる。

この指数は過去、米国2年金利(18カ月先行)との連動性が強かった。そのため、今も金利低下を受けて同指数が景気後退に近い水準まで低下するのではないかと懸念する向きもある。だが、当社は同指数と金融機関貸出態度との相関をより重視している。世界的に低成長、低インフレが続き、先行きの不確実性がある中で企業が現預金を潤沢に持つ「貯蓄体質」化が進行し、金利だけでは経済が説明できなくなっているためだ。

米国の金融機関貸出態度は、今年の2、3月ごろからFRBがハト派姿勢を示し始めたことで、5月に緩和方向へ転じた。7月の利下げ後に発表される8月の数字は、さらに緩和化していることが確認できるだろう。ISM製造業新規受注指数は確かに足元では低下しているが、貸出態度の方向性から判断する限り、悲観する必要はない。

中国も、政府による景気下支え策の効果が出始めている。政府と民間の設備投資である固定資本形成の伸び率はずっと鈍化を続けてきたが、2018年後半から6%程度で横ばいになった。小売売上高も足元は持ち直している。預金準備率の引き下げや、大幅減税などの政策効果は今年後半により強く出てくると考えられため、景気の下支え効果が鮮明になるだろう。

<利下げの性質を判断するには>

以上のように、米中や世界経済の先行きに特に悲観すべき材料はなく、FRBの利下げは「予防措置」の側面が強いと考えられる。それは利下げ実施後、いつの時点が判断の目安となるだろうか。

米国の過去の利下げを振り返ると、景気後退に伴うものとしては1989年、2001年、07年が、予防的なものとしては1984年、95年、98年がある。これは、利下げ後18カ月以内に景気後退に陥ったか否かで定義分けしている。

この2つのパターンについて、利下げ後の米株価(S&P総合500種)の動きをみると、いずれの場合も利下げ直後は一旦上昇し、その後20─30日程度は同じような値動きを見せる。だが40─60日後になると、予防的利下げの場合は上昇基調に入る一方、景気後退に伴う利下げでは低迷するという、顕著な違いが出てくる。

ドル指数や製造業ISM,米10年金利など、ほかにも見るべき材料はあるが、差異が明確になる時期は株価よりもずっと遅い。このため、今月決まるであろう利下げの性質を確定的に判断するには、FOMCから約2カ月間の株価が重要な要素になる。

<出遅れの日本株にも注目>

今回の利下げが当社の分析通り「予防的」なものだったとしても、それで米経済が3%、4%の成長率を回復するとは考えられない。米中の関税や完全雇用による供給制約の影響が出る上、減税や財政措置の効果が剥落していく。世界経済全体が成熟化する中で、成長の目線は下げる必要があり、低金利に応じた投資戦略が必要になる。

2019年上半期の経済は順調な回復ぶりを示し、株式の年初来リターンは先週末時点でグローバル株式が15%、米株では17.6%の上昇だった。当社のポートフォリオだけを見ても、1998年以来となる過去最高を更新する好調ぶりだ。グローバル株式は引き続きオーバーウエイト(強気)を継続し、国別では米株を推奨する。ただ、一定の価格で売る権利であるプットオプションを持つなどの対策も必要だろう。

日本株は年初来、上昇率が7%程度と大きく取り残されている。消費増税への懸念や、日銀の追加緩和余地が限られていること、アベノミクスの次の一手が見えないことなどが重なったためとみられるが、米株や中国株に比べて出遅れ感はあまりにも大きく、下落余地も少ないとみられるため、オーバーウエイトに位置付けている。

景気先行指数のボトムアウトが明確化し、米国の利下げが予防的なものであるとの認識が強まれば、日経平均株価は2万3000円程度までの上昇余地があるだろう。ほかにも、先進国の低金利環境が継続すると見られる中、新興国のイールドに注目し、エマージング市場のドル建てソブリン債や、欧州圏の投資適格社債などを推奨している。

円は購買力平価の観点から、中長期的にはオーバーウエイト。ただ、日本の経常収支が長期的に赤字化するリスクが相当あることを踏まえ、円が中心の投資家には外貨での分散を勧めている。米中の通商交渉が続くメーンシナリオでは、今後半年程度は1ドル=106─111円程度で推移するだろう。豪ドルはずっとアンダーウエイトだったが、利下げ余地が少なくなったことから、ショート(売り持ち)を閉じた。

<米中二極化>

重要なのが、米中の技術覇権争いのインプリケーションだ。中国の華為技術(ファーウェイ)への規制に賛成する国と反対する国が、それぞれ世界のGDPに占める割合をみると、賛成は米国や日本、台湾など35%。反対は中国や中東諸国などで42%程度だ。世界経済を2陣営に分割する印象だ。

テクノロジー産業では、データベースやマイクロプロセッサーなどの上流技術では米企業の市場占有率が高く、無線通信のベースステーションなど下流はファーウェイなど中国企業の存在感が大きい。

米中の技術覇権争いは長期化するとみられ、今後は中国企業も上流技術を手掛けざるを得なくなるだろう。中国による独自技術の開発は数年程度で実現する可能性があり、陣営二分化の中で中国技術を使うことに賛同する国は多い。新しく中国で台頭するユニコーン企業に注目が集まっている。

また、二分化されていく世界で人の移動に制約が課されれば益々人手不足は深刻になるとみられ、下流産業の1つであるロボット産業はより重要な産業となるだろう。日本のロボットメーカーは、米国企業の上流技術を用いて中国・アジアで事業を展開できるため、技術覇権争いの中でも中期的な拡大余地は非常に大きいと見ている。

技術革新のスピードは加速度的に増しており、1つのセクターの中でも、変化についていける企業とそうでない企業が出てくる。金融情報技術(フィンテック)やフード・イノベーション、人工知能(AI)や第5世代移動通信システム(5G)といった実現技術の中でも、変化を作っていける企業とそうでない企業を見極めることが一層重要になる。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載された青木大樹氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいて書かれています

(聞き手:山口香子)

青木大樹氏(本人提供)

*青木大樹氏は、UBS証券ウェルス・マネジメント本部の日本における最高投資責任者(CIO)兼チーフエコノミスト。2001年より内閣府で政策企画・経済調査に携わった後、2010年にUBS証券入社。2016年、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査の日本経済エコノミスト部門にて5位(外資系1位)に選ばれる。

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