May 28, 2019 / 4:57 AM / 5 months ago

コラム:米中による「禁輸措置」なぜ非効率か、歴史で検証

[ロンドン 23日 ロイター] - 禁輸措置が、一国の外交的な振る舞いを強制的に変えさせる効果は乏しい。なぜなら禁輸措置を講じても、貿易相手を切り替えたり、内製化を進めたり、技術革新に乗り出すなどの方法で事態を乗り切ろうとする大きな意欲が生まれるからだ。

 5月23日、禁輸措置が、一国の外交的な振る舞いを強制的に変えさせる効果は乏しい。写真は中国江蘇省で3月撮影(2019年 ロイター)

米政府は今月、貿易問題で対立する中国への圧力の一環として、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)からの製品購入と、ファーウェイへの出荷を全面的に禁止するという制裁を行うと発表した。

評論家らの間では、中国がレアアース(希土類)などの対米輸出禁止といった報復に動く可能性があるとの観測が浮上。中国の習近平国家主席は今週、レアアース生産地をわざと注目を集める形で視察した。

両国のこうした戦略は長期的には機能しない公算が大きいが、新たなサプライチェーンが構築されるまで、短期的には双方の国や企業に混乱を巻き起こすかもしれない。

過去の経緯を踏まえれば、サプライチェーンと技術は驚くほどの柔軟性があり、その時点で専門家が評価している以上にしなやかなので、サプライチェーンに制約を与えても、外交圧力の役割を果たすことは滅多にない。

<木材確保巡るせめぎ合い>

18世紀終盤から19世紀初めは、レアアースよりも木材が重要な資源だった。木製軍艦を建造する上で不可欠であったからだ。

当時の英海軍は、木材や軍艦の帆柱を北米ニューイングランドやプロシャ、ロシアの森林からの輸入に全面的に依存していた。

ところが米国独立戦争とその後の皇帝ナポレオン一世が率いるフランスとの戦争によって、これらの地域からの輸入ができなくなった。

ニューイングランドの独立派は帆柱を製造するのに必要な大木の対英輸出をすぐに差し止め、欧州大陸を支配したナポレオンは大陸封鎖令を通じてプロシャとロシアから軍艦建造用木材などを英国に輸出することを禁じた。

英国の当時の人々は、新たな艦の建造や損傷艦の修理に使う木材が不足して海軍の戦闘能力が低下し、本土が侵攻されてしまうと心配を募らせた。

しかし実際には英海軍はカナダやアドリア海地方、そして遠く離れたインドから代わりの木材を得る道を確保。さらにはるか遠方のニュージーランドも、帆柱の調達先として注目された。

またナポレオンが封鎖令の対象とした地域からも、仲介商人や秘密組織などが賄賂や偽の納品請求書といった手段を駆使し、英国に木材が密輸された。

このフランスとの戦争の後期には、ほとんどが質の低さや必要がないとの理由で受け入れられなかったとはいえ、ジャマイカ、ブラジル、ギアナ、ホンジュラス、シエラレオネなどからも木材を買わないかとの提示があった。

英国内の木材不足に対応するため一部の軍艦建造がインドに移されたほか、払底したとされた同国の木材供給までもが復活した。貴族らが価格高騰を見て自分たちが保有していた貴重なオーク材の切り出しを容認したからだ。

<失敗の数々>

もっと最近の例を見ても、サプライチェーンが信じられないほどの順応性を発揮したことで、禁輸が外交的態度を修正できなかったことが分かる。

大戦時のドイツと人種隔離政策を行っていた際の南アフリカは、石油供給を停止すると脅されたり、実際に停止されたが、国内で産出する石炭を液化させて燃料とする技術を開発して対応した。

1990年代のイラク産原油の禁輸措置は、米国にとって満足のいくほどにサダム・フセイン政権の脅威を取り除くことができず、結局2003年に直接攻撃を掛ける事態になった。

イランに対する2012─15年の国際的な制裁と1979年以来の米国による独自制裁は目的(はっきりしない面が多いが)を達成できなかった。

米国と欧州連合(EU)によるロシアへの制裁も、ロシアのクリミアやウクライナ東部からの撤退にはつながっていない。

北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させようとする多国間の制裁の枠組みもまだ成果は見えない。

<サプライチェーンの順応力>

今回米中がお互いに発動した制裁が、双方の戦略的行動に変化を迫るという面で、過去に失敗してきた他の制裁例よりもうまくいくことはないだろう。両国ともに、制裁を回避する新たな方法を生み出す公算が大きい。

米国は中国に代わる重要鉱物の入手先として、オーストラリアなどの友好国や、国内の資源開発に活路を見出しそうだ。米国の製造業者や小売業者は、中国からメキシコないし東南アジアに生産拠点を移すことで、サプライチェーンを再構築するだろう。

中国も、独自の半導体製造装置や基本ソフト(OS)を開発してコンピューターや通信システムのサプライチェーンを組み直す公算が大きい。また米国ではなく中南米から大豆を購入したり、原油および天然ガスをカタールやロシアから輸入するなど、原材料調達の多様化も図るほか、そのうちドルを使わない金融や決済の仕組みも整備するとみられる。

一部の専門家は、そうしたサプライチェーンの再構築は不可能ではないとしても非常に困難だと主張するが、彼らは難しさを過大視しているのではないか。

英国の伝統的な造船業者は、軍艦建造に耐えうるのは自国のオーク材だけで、帆柱はニューイングランドから輸入しなければならず、他の木材は質が悪すぎると言い張ってきた。

しかし必要に迫られると、インド産のチーク材やカナダ産のパイン材も、それなりに十分だと判明した。

インドの造船所も、英国内のデットフォードやポーツマス、プリマスなどの各施設に見劣りしない能力を持つことも分かった。

米国のサプライチェーンは、十分な金銭的かつ戦略的動機がある以上、中国を離れるだろうし、中国も独自のコンピューター産業を育成して農産物や原材料は米国以外から入手する。

サプライチェーン再構築は米中両国にひどい混乱をもたらし、それまでに行われた投資が暗礁に乗り上げたり放棄されることで、相当な富が失われるだろう。

経済的なコストは大きくなり、勝者とともに敗者が出てくる。それでもサプライチェーンは順応していく。

だから歴史を紐解けば、米国も中国も、それぞれの戦略的な態度を禁輸によって根本的に変えることは不可能だという教訓が得られる。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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